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執筆者の写真Hidetoshi Shinohara

ギター

正月、帰省したとき、実家に置いてあったギターを捨てるように父に言われた。年老いた両親は、息子達が家を出て行ってもう戻って来ないと諦めているのか、家の整理をし始めていた。

父に2階の僕の部屋に置いてあったギターをゴミの日に出すので、地下の駐車場まで降ろしておいてほしいと言われた。 あれは、中学2年の夏休みだった。春に転校してきた僕は、都会から転校してきてふてぶてしく生意気そうに見えたのか、クラスの悪ぶっているやつらによく絡まれた。今でいうイジメというやつだったのかもしれない。当時、負けず嫌いの僕は、イジメられたという感覚はなかったけれど...。そんなとき、母が長期入院した。父は、新しい地域の業績を伸ばすために送り込まれたビジネス戦士。その頃、ほとんど会話など交わした記憶がない。 祖母は、母の病院へ付きっきり。僕と弟は、親戚の家に預けられた。3つ年上の従兄弟と机を並べて夜は勉強した。勉強に飽きると、従兄弟がギターを教えてくれた。禁じられた遊びのボロボロになった切れっ端の譜面があった。夢中で練習しているうちに病み付きになった。 久々に家に帰ったとき、祖母にギターをねだった。田舎では唯一の楽器屋へ行って、ヤマハの25,000円のギターを買ってもらった。祖母は言った。「あんた、本当にやれるのかい?途中で飽きてしまうじゃないのかい?」僕は、絶対に諦めないとその場で誓った。 うれしくてうれしくて、毎日に毎日練習した。クラスの悪ガキなんか相手にせず、休み時間になるとほかのクラスへ行って、ギター友達をたくさん作った。転校生は、過去の話には加われないけれど、音楽の話、未来の話であればいくらでもできた。音楽好きな仲間は、文学もアートも好きだった。学校から帰ってくると友達を呼び、ギターの練習をした。二人で裏山に登ってギターの練習もした。お互いに技術的に不足しているところは教え合った。そのうち、学校では、合唱部で何人かとギター伴奏をしたり、卒業間近のお別れ会ではギターを披露したり、バンドを組んで市民会館でコンサートを開いたり、お陰ですっかり勉強しなくなってしまったけれど、自分の殻に引き蘢ることもなくなった。 高校生になり将来のことを考える年頃になったとき、父に「大学はどこへ行くつもりか?」と聞かれて、「大学なんか行かない。ギタリストになる」と言ったら、「流しになるつもりか!」とめちゃくちゃ説教された。あれから、38年が経っただろうか?このギターともお別れだ。最後にこっそり夜中に写真を撮って、まじまじとこのギターを眺めた。ギターに付いた、ひとつひとつのキズやシミが、ひとつひとつの情景を思い出す。ありがとう、ギター。

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6 comentários


Hidetoshi Shinohara
Hidetoshi Shinohara
27 de nov. de 2019

>ヨリさま

さしかわ楽器店で買ったギターです。 数年前、うちにある中学高校時代のレコードも全部処分したよ。 あの頃買った、ビートルズ革命とか、 新潮文庫のビートルズの本はすごい変色しているけどまだ持っている。

投稿者:hide★ :2012年2月 8日 10:24

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27 de nov. de 2019

捨てちゃったのね。あとで後悔したりして。 でもそういう私も去年秋に7年ぶりに帰国した際、 実家にあった小学時代から集めたレコードを全部処分した。 すごい量だった。 だけど高校2年の時に買った「楽器の本」は捨てずに持って帰ってきたよ。  なんか懐かしくてさ。

投稿者:ヨリ :2012年2月 8日 07:46

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Hidetoshi Shinohara
Hidetoshi Shinohara
27 de nov. de 2019

>yukiさま

あまりにも思い出に浸り過ぎて、 モノばかりが増えていくのは嫌いなので、 思い切って捨てることにしました。 一番最初のギターなので、こうやって写真に撮っておけば いつでも思い出せます。

今では、この10倍の値段のギターを3本持っているので、 これ以上増やしたくないのです。 いいギターの良さがわかるようになったのも 最初のこのギターがあったからこそです。

投稿者:hide★ :2012年2月 7日 01:11

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27 de nov. de 2019

お祖母さまに買っていただいた高価なギターは、 キズ、シミ、そして音色も ご一緒に年を重ねてくれてましたね。 捨てないでいて、

うんん、 失っても ここに姿が、 ご自身の心には、思い出の音がちゃんとある。

投稿者:yuki :2012年2月 7日 00:59

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Hidetoshi Shinohara
Hidetoshi Shinohara
27 de nov. de 2019

>大村さま

25歳からでも毎日のように弾けば、うまくなりますよ。 毎日毎日少しずつ、継続していくことが大切です。

ブルースハーブは、キーによって変えなければならないので、 全部揃えるのが大変ですよね。 何はともあれ、何か楽器ができるというのはすばらしいことです。 悲しいとき、嬉しいとき、怒りを誰かにぶつけたい時、 良き友達になってくれました。

どうやら、その楽器は弟がしばらくかわいがってくれたようです。

投稿者:hide★ :2012年1月22日 22:52

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美しく、輝く、輪を求めて。

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